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8-4の次があるという「都市伝説」
名実ともに国民的テレビゲームソフトである「スーパーマリオブラザーズ」のステージは1-1から始まって、ピーチ姫をさらったクッパが待ち構える8-4まである。無事にピーチ姫を助けだしたらエンディングとなって、また1-1からスタートする。敵キャラの動きが速くなり、クリボーがメットに交代して。
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タイトル | スーパーマリオブラザーズ |
ハードウェア | ファミリーコンピュータ |
メーカー | 任天堂 |
価格 | 4,900円 |
発売日 | 1985年9月13日 |
ジャンル | アクション |
クリスマスの苦い思い出を経て、我が家にもようやく「スーパーマリオブラザーズ」がやって来たんだ。
キミも覚えていると思うけど、「8-4の次がある」というウワサがあったよね。8の次は9だから、「9-1が存在する」というウワサは学校中に広まってた。もちろん、僕もこのウワサは信じていた。実際に見たという友達もいたからね。いわゆる「都市伝説」だ。
当時はインターネットなんてなかったから、こういうウワサは口コミでどんどん広がっていった。そして、ついに9-1の出し方という情報をウワサレベルではなくて、雑誌の袋とじで確認することができたんだ。
僕らの聖典であるコロコロだったか週刊少年ジャンプだったかはちょっと思い出せないけど、袋とじだったから多分、ジャンプだったと思う。そこには9-1の出し方が書かれていたんだ。インターネットを調べたら多分正しいやり方が見つかると思うけど、ここはあえて僕の記憶を辿って、そのやり方を書いてみたいと思う。間違ってても、許してくれ!
・まず「スーパーマリオブラザーズ」のカセットを入れて電源を入れる
・電源は入れた状態で、ガシャン(イジェクト)を使わずに引っこ抜く
・「テニス」のカセットをそのまま入れてリセットを何度か押す
・「テニス」をスタートさせてワンコンの方向ボタン・右上を押し続ける
・審判が何か判定を出したら、今度は「テニス」をいきなり引っこ抜く
・「スーパーマリオブラザーズ」を入れてリセットを押す
・タイトルが表示されたら通常のコンティニュー(Aボタン+スタート)をする
・運が良かったら9-1がスタートする
ちょっと抜けてるところがあると思うけど、これで9-1を遊ぶことができたんだ。最後の「運が良かったら」ってのが、なんとも頼りないけど、実は9-1以外のステージが始まってしまうことの方が多かったんだ。
当時の僕らは、ファミコンにまつわる「256」とか「65535」ってのを覚えてたんだけど、この「スーパーマリオブラザーズ」の裏ワザでは256面のうち、どれかのステージが始まって9-1はそのうちのひとつだと言われてたんだ。
R君「もうやめて・・・」しかし実験は続く
256面あるステージから、どうやったら9-1が選ばれるかなんて僕らには全くわからない。「スーパーマリオブラザーズ」を最初に入れた時にデモ画面を「ここ」まで見たら行けるとか、テニスのプレーヤーを「何歩」歩かせたら行けるとか、「テニス」のカセットを片方を浮かせて斜めに入れたら行けるとか、とにかく情報が錯綜していた。
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タイトル | テニス |
ハードウェア | ファミリーコンピュータ |
メーカー | 任天堂 |
価格 | 4,500円 |
発売日 | 1984年1月14日 |
ジャンル | スポーツ |
このウワサが流れ始めた時に、「スーパーマリオブラザーズ」を持っていてなおかつ「テニス」まで揃えている友達なんて、このブログに何度も登場してくれてるR君しかいない。当然、僕らはこのウワサの検証をR君の家で行うこととした。
上記のやり方を見てもらうとわかると思うんだけど、このやり方って、ファミコン本体にすんごい負担をかけるやり方なんだ。説明書にはガシャンを上に上げてカセットを抜いてねって書いてるのに、そのまま引っこ抜いたり、そもそも電源が入ったままカセットを抜くなんて、やったことがないし、自分のファミコンではやりたくないよね。
そう思ってるのはR君も同じだと思うんだけど、材料を全て揃えてるのかR君しかいなかったので犠牲になってもらって協力してもらって検証を続けることになった。
ガチャッ!パッチン!カチャチャチャチャ・・・(リセット連打音)
時々横目でR君を見ると、「もうやめて・・・」と顔に書いてある。それでも、僕らの好奇心はとどまることをしらないので、実験は続けられていく。
「またこの面だ!」「マリオが動かない!」「もう無理!」
何度やってもうまくいかない。そのうちR君の家が晩ごはんのタイミングになったので、僕らは後ろ髪引かれる思いで退散することになった。家に帰っても、うちにあるファミコンじゃ「テニス」が無いのでできない。しばらくはR君の家で9-1検証だけが行われることになった。
やりたくもない「テニス」を買ってもらう
これ以上R君の家でできなさそうな雰囲気が漂ってきたので、僕はついに、やりたくもない「テニス」を買ってもらって、自宅で実験をすることを決意した。
キミはこの頃のことを覚えているだろうか。9-1のウワサが広まり始めたのと時を同じくして、「テニス」の中古価格が上がっていったことを。正確には覚えてないけど、駅前の「M堂」っていう古本屋さんで2,000円くらいで手に入れたと思う。
当時は野球かサッカーが小学生に人気のあるスポーツだったので、テニスが好きな小学生ってそれほどいなかったはず。だから「テニス」は、いつもだったら500円前後で中古に出回っているようなソフトだったんだ。それが大人気ゲーム「スーパーマリオブラザーズ」の裏ワザに使用される材料だとわかった途端に、急激に値上がりした。
「ごきげんテレビ」もそっちのけで実験に没頭
ある日、同じ団地の上の階に住んでいるDちゃんが遊びに来た。Dちゃんは僕よりも学年が2つ上のお兄ちゃんで、ひとりっ子だった。兄がいなかった僕にとっての兄貴的存在だった。Dちゃんの両親は共働きだったので、よく土日に泊まりに来た。僕が9-1の裏ワザを知ったのも、Dちゃんが読んでた週刊少年ジャンプの袋とじを見たからだ。
晩ごはんが終わってから、Dちゃんと一緒に、R君の家でやってた手順で9-1を見る実験を始めた。その日は土曜日だったと思うんだけど、毎週欠かさず観てた「ごきげんテレビ」もそっちのけで実験に没頭した。
団地だったので、親や弟たちが寝ている場所が近かった。寝静まった後はカセットを引っこ抜くのに大きな音を立てないようにして、静かに実験を続ける僕たち。途中で違うゲームをして気分転換をしながら、小学生が起きているのに似つかわしくない時間までやり続けた。そう、もはや実験というよりも延々と同じことを繰り返す作業になっていたのだ。
9-1は僕の思い出にしっかりと刻まれた
カーテンから朝日が漏れるような時間になっていたその時、画面にはマリオの残機表示とともに「9-1」が表示されていた。海のステージのBGMが鳴り始めて、真っ暗な画面でマリオが泳げるようになっているのだ!僕は力尽きて横で寝てしまったDちゃんを揺すり起こして、画面を指差した。
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ついに9-1を出現させることに成功した僕らは、画面の上あたりまでマリオを浮上させて空を飛ぶように進めていった。その時である。「プーーーーーーー」というBGMに変わって、マリオが暗闇の空中で停止してしまったのだ。何が起こったのかわからなかったが、これ以上ゲームが続行できないことを理解し、同時にもう9-1を見られないことを予感したのだ。
そう。またあの作業を繰り返すことを考えると、もうこれ以上はできないと思ったのだ。こうして僕らが目撃したウワサの9-1は、長い長い下準備を重ねて姿を表し、花火のように一瞬の輝きを見せて消えてしまった。
月曜日の学校で事の顛末を雄弁に語ったのは言うまでもない。たとえ誰も信じてくれなくても、僕らは確かに9-1を出すことに成功したのだから。今の時代なら写メに撮って見せびらかすこともできただろうね。でも、9-1は僕の思い出にしっかりと刻まれたんだ。